里山インキュベーターいびがわ2018入門編 第1回「生きがい×なりわい」報告

「大きなことを達成するには、楽しみながら小さな営みを積み重ねていく」

岐阜県揖斐川町谷汲に移住され、自然農を営まれているナチュラルファームCocoro多田さんの言葉です。
実際に農業や、そこでの暮らしを実践されている方のとても説得力がある言葉でした。

里山インキュベーターいびがわ2018入門講座は『暮らし直し』をテーマに移住の先輩にお話を聞いたり、フィールドとなる揖斐川流域ツアーに出掛けたり。

《生きるって?》や《シゴトって?》を考える連続講座です。その第1回が以下のように行われました


  • 日にち:2018年6月24日
  • 時間:13:30~16:30
  • 場所:神田会館(岐阜県垂井町)
  • プログラム:
    • ナチュラルファームCocoro多田ひろきさんのお話
    • 多田さんと神田さん(泉京・垂井 副代表理事)との対談、質疑応答
    • 参加者同士の対話
  • 参加人数:24人

梅雨の期間にも関わらず、天気は快晴。
岐阜県を始め、愛知県、長野県からも参加していただきました。

多田さんは、揖斐川町谷汲で自然農の実践や、ワークショップをされています。
わたしたちが開催するイベントにも出店して下さいますが、いつも人気で多くのお客さんで賑わっています。

その多田さんが、揖斐川町谷汲に移住し農業を始めるきっかけからお話が始まりました。

多田さんのお話

 移住、農業をはじめたきっかけ…

“きっかけは東日本大震災。当時自分には、福島第一原発事故の影響で、福島をはじめとする東北、
そして、もしかしたら東日本全体の食料が食べられなくなるのでは!?という危機感がありました。
農業をやらないと生きていけないのではないか、 自分の食べ物は自分でつくらなくては!そんな思いから農業をはじめました。”

岐阜県には、新規就農者に対して補助金があります。
その補助金を使いつつ、いずれは独立しようと借りられる畑を探し始めました。
多田さんは三重県出身。岐阜に知り合いはなく、なかなか畑を貸してくれる人が見つかりません。
ついには、名刺の裏に「畑、貸して下さい」と書いて配ったそうです。

ある日、その名刺を見たという谷汲の方から連絡があり、すぐに訪問。会いに行ったその日に畑が借りられるようになりました。

谷汲に移住、農業をはじめる

2012年に谷汲に移住され、農業を始めました。
今は3,4町歩ほどですが、最初に借りられたのは1反だそうです。

有機農は、おおよそ30種くらいの農薬使用が認められているそうで、有機農家といっても認められた農薬を使う方、ほとんど使わない方までさまざまです。
多田さんは、このような有機農法ではなく、堆肥だけで野菜を育てていこうと決意します。
このような農法を自然農法というそうです。

“自然農は自分に合っている農業だと思う。
だけど、収量が通常の半分くらいで、売れ残りはないけれど、生活も大変です。
そんな中、自分の自然農に共感する方が増え、野菜を売ってほしいと言う方が増えていったんです。

もちろん最初は、その声に応えようと必死だったのですが、移住して3年経ったころ、その限界に気づきました。
3.11をきっかけに、自分たちや周りの人が「食べていける」よう農業を始めたのに、自分がやってるだけでは欲しいという方に食を届けきれません。
そう気付いたとき、自分ですべてやるのではなく、食料を作れる「農家を増やそう!」と考え、畑の講座やワークショップをはじめることにしました。”

畑の講座にはこれまでに延べ500人が参加。
意外だったのは、今まで農業に関わっていない人でも、軽トラを借りたり周りの人を巻き込んだりしながら、あっさりと農業を始めてしまったことだそうです。
講座をやってみて多田さんが感じたことは、農業をやっている人とやっていない人の境界線をずらすことの大切さでした。

2014年、すべての種を固定種(※)にかえ、多田さんは農のさらなる追求を開始します。
固定種を使う農家は、多田さんが始めたころにはほとんどいなかったそうですが、今では多くなってきたとのこと。
これは現在の経済とは違う価値観を持つ人が増えてきた証拠ではないかとのことでした。

 ※固定種は、種は取れるが収量は少ない。種の自家採取が可能なので、循環型の持続可能な農業が実践できる。それに対して、F1種は成長が早く収量が多い。種は取れない。90%がF1種である。

 移住した先の生活は…

谷汲での生活はいいことばかり。
移住していやだなぁと思ったことは殆どないそうです。

強いてあげるならば、普通であればリサイクルに出すようなプラスチックやペットボトルなどをゴミとして畑で燃やしてしまうこと。
その他、ご近所さんは化学薬品で香り付けをした洗剤を使用したりするそうで、それも辛かったなと。

“除草剤をまかれた時は、もちろん、腹が立ちましたよ。
でも、「自然農はそういうものは使わないんです!」とか「やめてください!」と言うことはしませんでした。
言葉で自分の考えを言う代わり、ゴミ回収の日は分別して出すことや、除草剤をまかれる前に草刈りを終えてしまうなど、行動で示すことを続けていきました。

そうすると、みんな見てくれているんですね。
そのうちにご近所さんの方から「ちゃんと分別してゴミを出すようにしよう!」とか「除草剤はまかないよ」と言ってくれるようになりました。
移住したての頃は、いろいろ困ったなと思うこともあるでしょうが、自分の主張はさて置き、ご近所さんと仲良くなった方が、何でも話し合えて楽しめるようになると思いますよ。”

移住してよかった…

移住して良かったことは、水や空気がきれい、夜が静か(すぎる)などたくさんあります。

そのなかでも、家賃など生活コストが安いことが魅力だとのことです。
買い物に行くことは減り、なにかが壊れたら自分で修理するなど、いろいろ不便だけど自分で何とかしてみようと思うようになったそうです。
野菜はご近所さんからたくさんもらい、ときにはイノシシやシカ肉などももらえます。

「ウィン-ウィンとかギブ&テイクとかいわれるけど、そのような関係ではない。見返りを求められたことはない。今考えると、野菜もシカ肉も自分のものではなく自然からの恵だから、みんなで分けようという意識があるのではないかな」とおっしゃっていました。
いまでは周りの方にお裾分けできるようになったとのことです。

また、私たちがちょっと煩わしいなと思ってしまうような自治会や地元の活動も魅力があるとのこと。
何らかの役割が日常にあり、自分の存在が認められていると感じられるそうです。

都会はなにもない…

 “ご近所さんから「ちょっと手伝ってよ…」と、かり出されることもしばしばです。
そんなとき、こちらが時間と労力を費やしても、「ありがとね」でおわり。
都会暮らしやサラリーマン感覚からいくと、とても不思議です。

都会では「人の動く時間=お金」という感覚がありますが、田舎にはそのような感覚があまりなく、「動いて当たり前」の意識が浸透しているようです。
そのように考えると、都会はなにもかもお金で、逆に言うとお金がなければ何もない。
田舎は貨幣経済に浸食されていないところが残っており、『現在の経済活動から片足を出せる場所』に魅力、希望があるのだと思っています。”


以上で多田さんからのお話は終わりました。

地域ならではのエピソードや実践に裏打ちされた説得力のある言葉。
参加者は、多田さんを囲むようにしてお話に聞き入っていました。
田舎で生活すること、生業をの魅力を知り、具体的イメージを持つことができました。

多田さん×神田さん 対談

この時間からは泉京・垂井の副代表理事神田さんも交えて対談を行いました。

「示し合わせたかのように二人とも緑色のTシャツですね」そんな会話からスタートしました。

移住に伴う経済のスケールダウン

多田:
先述のとおり、田舎の生活ではお金があまりかかりません。
しかし都会から田舎へ移住すると考えると、都会での生活の質を落とさなければならない(経済のスケールダウン)と感じます。
しかしそうではなく、自然とそうなっていくんですね。

神田:
お金がかからない=質素倹約のイメージですが、自然農で栽培された野菜にあふれ、新鮮なシカやイノシシの肉が食べられ、
基本的な食にお金が掛からない分、地域では取れない肉も良いものを買うことができる。
おいしい水はすぐそこにあるし、家賃も都会の何分の1で固定費がほとんどかからない。

多田:
都会では健康も安心・安全な生活もお金で買っているんですよね。
もし、都会でこのように豊かな食、美味しい水を手に入れて生活するとなると年収1000万円くらいなければできないのではないかな。

田舎には、お金はかからないけど豊かな生活があるのだなと感じました。

農政と農的生活をしている人のギャップ

神田:
世界では110億人分の食料が生産されているが、地球上の70億人しか養えていないという現実。
国際的にはこのような問題を解決するのは小規模農家であるとされています。
しかし日本は、この流れに逆行し、大規模農家を推進しています。
農的生活をしている人たちは小規模農家の大切さに気が付いていて実践していますよね。
このように農政と実践者との考えには大きなギャップがあるように見えます。

多田:
私がかつて受けた講習では「最強の農家」になろうと謳われていました。
その内容は「大規模で単一の作物をつくり都会に売ろう」というもの。
そのとき私は「ネギばっかりつくって、どないすんねん」と思いましたね。

3.11以降、みんなが食べられなくなるかもしれないという危機感から農業をはじめたので、
『単一作物を大規模に』の考えはまったくしっくりきませんでした。
自分たちで食べるものは自分たちで作る小規模農家がたくさんあるのが最強の農業じゃないかな、と思うんですけどね。

移住して農業をするということ

神田:
水利権、財産区や入会地など都会に住んでいては聞きなれない言葉や権利などがありますね。
このような知識は事前に知っておく必要があるのではないでしょうか。

自分と思いと現実とのギャップが出てきた時には

神田:
先程でてきたゴミの分別の話のように、いなかへ移住した人にとって、自分の思いと地域の人達との思いにギャップがあるという話はよく伺います。
その場合は、多田さんからは「まずは仲良くなること」と伺いました。
正論を言いたい気持ちは押さえて、敢えて言わない。あとは行動で示していけば、周囲は見てくれている。
行動を見て、少しずつ周りが変わってくると実感されたという多田さんのお話は本当に示唆に富んでいます。

多田:
最初はまわりから「何やっているんだろう」と見られていたのですが、自然農のワークショップに親子参加が増え、こどもが来てくれることで、周囲の見方がかわってきたようです。
今ではワークショップに飽きたこどもがご近所の庭で遊ばせてもらうこともありますよ。

「時間=お金」という世の中から片足を出す

多田:
なんでもお金で買ったり、「時間=お金」という現在の貨幣経済は世界的な流れです。でも、それは少しむなしく感じられます。
田舎では自分の時間をつかってもお金にはならないことがたくさんあります。例えば援農。
人手がないときに助っ人として参加しますが、お金はもらいません。
このようにお金だけで解決するのではなく、助け合う社会を肌身で感じています。

神田:
多田さんのおっしゃる助け合いは、昔で言うところの「講」のようなものでしょうか。
そのような互助のつながりが多層にできていくと、豊かさを実感できる社会になるのではないでしょうか。

『食料』『健康』『安全』…etc. なにもかもお金で買うしかない都会型の貨幣経済。
そこから片足を出し、本当の豊かな生活をみんなが送れたらいいな……
という大きな目標を達成するためには、楽しみながら小さな営みを積み重ねていくことが大切ですねと共感し、対談は締めくくられました。


その後は休憩&カフェタイム、フェアトレードのコーヒーや紅茶、お菓子が用意され、それを囲みながらおしゃべりをしました。

参加者同士の対話

休憩後は4つのグループに分かれて、ワールドカフェ形式で参加者同士の対話を行いました。
15分×2回という短い時間でしたが、いろいろな思いや考えが話されました。

話したテーマは①「本日のお話を聞いての感想(素敵だと思ったこと、疑問に思ったこと)」
②「豊かって?幸せな働き方って?」でした。

各グループでは以下のような話がされました。

  • お金だけでは解決できないことがある。人はお金だけで成り立っていない。
  • ふりかえってみると「お金=時間」ではなないことは経験している。
  • お話をされたことは、少し昔であればどこにでもあった。
  • 田舎に住んでいるけど今日はなされたようなことの実感がないのはなぜだろう?
  • どのレベルが自分にとって幸せなのか。ひとによって幸せの定義は違う。
  • コンビニもない田舎暮らしは不安。でもやってみなければわからないよね。
  • 大きな目標を達成するには小さな事を積み重ねていくということに共感。
  • お金にならない価値があるのだな。
  • 移住する際、地域のキーパーソンにどうしたら会えるのだろう。それが大切。
  • 地域通貨を実施する。すぐにできるのでは?
  • 半農半X
  • こどもがいるので農業には関心がある。おすそわけとかがうらやましい。
  • 互譲。地域の中にはうっとうしいと思う人もいるかもしれないがとても大切。
  • 本当に生活していけるの!?
  • モノ・コト交換が豊かなこと。
  • 実際に移住してみたい!でも移動手段とかが不安である。 など。

話が盛り上がってきたところで時間がきました。
短くて申し訳ございませんでした。
この後、希望者で場所を変えて懇親会を行い、1回目は終了いたしました。

里山インキュベーターいびがわ2018 入門講座のご案内

「インキュベーター」とは、「ふ卵器」(卵を温めてかえす器械)のこと。
そこから転じて近年では、社会起業を志す人の育成・支援を指す語となっています。
さらに私たちは『里山インキュベーターいびがわ』として、
農山村の3大遊休資源「空き家」「耕作放棄地」「放置山林」や、
多様な地域資源を活かしてコミュニティに「小さな経済」生み出す起業家育成の連続講座を開講。
本講座はその入門として、キーワード『生きがい×なりわい』をもとに移住の先輩にお話を聞いたり、
現場を訪問しながら≪暮らし直し≫を考えます。
そして、自分のやりたいことを見つめたり、コミュニケーションを学ぶ機会を提供します。

この講座は1年を通しての講座です。6月24日はその第1回目でした。
次回講座は8月4日(土)「揖斐川中・下流域ツアー」を実施します。
揖斐川流域で実践や活動をされている方の現場を訪れお話を聞きます。

これとは別に7月11日に「先輩に聞く!座談会1回目 スープ屋さん」を開催します。
こちらは移住や小さななりわいお越しの先輩を囲みながら、実際の活動や生活のお話を伺います。

詳しくはウェブサイトでご確認をお願いします。

http://onpou.org/

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